【カット5】捕獲配信
凜華によって、仲間が倒されたのを男たちは信じられない思いで見ていた。
巨体が邪魔で詳細は見えなかったが、立ち姿から蹴りで倒されたらしいことはわかった。
ふた回りも違う体格差をものともしない、彼女の攻撃にゾッとする。
「それで、アナタたちもお相手してくれるの?」
「くッ……い、いや……」
「なら、お仲間を連れて、早く立ち去ってくれるかなぁッ」
いまだ空手の構えを崩さない凜華に、残された男たちは気圧されてしまっていた。
ずいっと距離を詰められると、慌てて倒れた仲間を左右から抱き起して、逃げるように去っていくのだった。
「ははッ、いいねぇ、期待以上だよ」
それまでの凜華の立ち振る舞いを傍観していた狩人は相好を崩していた。
事前に現場近くの街灯にカメラが設置されていた。それを介して、事態を見ていたのだ。
勿論、都合よくカメラの前で事が起こったわけではない。それが出来るのは襲った男たちも凜華が助けた女も彼による仕込みであるからだ。
男たちは狩人の配信している鬼哭チャンネルの熱心な視聴者だった。協力を申し出てきた中から、特に体格のよい者を選んでいる。
凜華に倒されたのはアメフト部に所属する大学生で、格闘は素人であるがその屈強な肉体とタックルは十分に脅威だった。
あのまま凜華を倒せれば、そのまま近くのラブホテルに連れ込んでよいと告げていた。それで倒される程度の女ならば、狩人も興味を失っていただろう。
だが、幸か不幸か彼女は無傷で倒してしまったことで、狩人のヤル気を駆り立ててしまっていた。
「あの強気な態度も良い感じだ。屈服させがいがあるってものだ……なぁ? そう思うだろう?」
天井から吊られたモニターから目を離した狩人は、周囲に視線を向ける。彼がいるのは凜華たちから、そう離れていない場所にあるダーツバーだった。
カウンター席の正面には三台のダーツ台が並び、学生らしき六人の男女がいる。
彼らもまた店内に設置されたモニターに映る凜華の奮闘をみていたのだ。彼らも狩人の熱心なファンであり、協力に志願してきた者だちだ。その顔からは教祖を崇める狂信的な信者のような異様な熱を感じさせる。
狩人を問い掛けに一様に頷き、これから起こることに対して異様に興奮をしているのだった。
「さて、そろそろ獲物がこの店に到着する頃だ、よろしく頼むよ」
それを合図に彼らは客を装い、アルコールを片手にダーツを愉しみはじめる。これで傍目からは若者に人気のあるダーツバーに見えることだろう。
ここに凜華を誘い込み、その光景を配信しようと狩人は目論んでいた。彼は狙った獲物を捕らえるのに強引な手を好まず、こうした凝った演出で罠にはめるのを好んで配信しているのだった。
サクラの準備が整ったのを確認した彼は、店内に設置してある複数のカメラを入念にチェックすると、その中心にあるカウンターの三席を綺麗に整えた。
――カラン、カランッ
準備が揃ったのを見計らったように、入口の扉が開かれた。来店者を報せるベルが鳴り響いてくる。
最初に顔を出したのは任里だ。彼女は凜華の身辺調査にために探偵社から派遣されてきた調査員だ。女子大生を偽り大学に潜入していた彼女は、そのまま凜華を捕獲するのに協力している。獲物の誘導とその後のアリバイ工作を担当することになっていた。
男たちに言い寄られて動揺する女性を落ち着かせようと、知り合いの店へと連れてきたシナリオだ。
狙い通りに凜華をともなって来店した彼女は、バーテンダー役の狩人と親しく会話するアドリブまでこなしてくれて、演出を強めてくれた。
女優を目指していたこともあるらしく、役者崩れらしい実に堂に入った演技をしいている。
「それは大変だったね、これはサービスだよ」
任里から事情を聴き、同情しながらカウンター席をすすめる。中央に座る凜華が助けた女――加瀬 沙莉(かせ さいり)は、狩人によって調教された大手企業の重役秘書だ。
彼女が身体を震わせ、ひどく怯えた様子をみせているのは、狩人から捕獲に失敗した場合のお仕置きを言い含められているからだ。お陰でガタガタと身体を震わせた迫真の演技をしている。
難点をいえば、カウンター内にいる狩人に媚びた目を向けるところだが、いまのところ凜華が気づいた様子はない。
(まぁ、失敗する要素があった方が、配信としては盛り上がるがな)
配信を盛り上げる為なら、多少のトラブルも許容する。それが出来るのは入念な事前調査により微調整が可能だからだ。
慣れた手つきで三人のドリンクを用意していく狩人は、隠し持ったスポイトから薬液を垂らしていた。それは無味無臭の睡眠薬だ。口にしても気づかれることがない優れ物で、アンダーグラウンドサイトではこうした薬品も取り扱われている。
そして、凜華の前に置かれたのは女性受けする流行りのカクテル、もちろん凜華がアルコールを嗜み、その好みも把握済みだ。
先ほどまで悪漢と対峙して軽い興奮状態にある凜華だから、すぐに目の前に置かれたカクテルにも手を伸ばす。そうと思われたが、激しく怯える沙莉を心配してなかなか手をつけようとはしなかった。
(少し怯えさせ過ぎたか……)
背後でワイワイと愉しげにダーツを愉しむサクラたちだったが、時間が経過すると状況が気になるのか、しきりにこちらの様子を盗み見てくるようになった。
背を向けているとはいえ、凜華に警戒されてもことだ。この辺りは、素人の協力者であるから仕方のないことだろう。
妙な緊張感が漂いはじめる中、そこに助け舟を出したのは任里だった。何度も狩人の手助けをしているだけあって、状況をよく把握している。沙莉にアルコールをすすめると、自らもグラスを手に取ってみせた。
「あんな連中のことなんて、お酒でも飲んでパーッと忘れてしまいましょうよ……まぁ、残念ながら、私のはノンアルコールなんですけどね。ささッ、先輩もグラス持ってッ」
任里に誘導されて凜華もようやくグラスを手に取る。そうして、グラスを重ねた三人は、そのまま中身を口にするのだった。
周囲が固唾を呑んで見守る中、ついに凜華もグラスの中身を口にふくみ、ゴクリと飲み込んだ。途端、周囲に安堵の気配が広がる。
任里に配慮して、今日はアルコールを飲んでいなかった凜華は、先ほどの立ち回りもあって、いつも以上にアルコールを美味しく感じていた。
さらに二口、三口と飲んでいき、グラスの中身も減っていく。それを確認すると、任里もゴクゴクと喉を鳴らしてグラスを飲み干して、さらに狩人にお代わりまで要求するのだった。
「おいおい、二杯目からは金を払ってくれるんだろうなぁ」
「えーッ、美人さんを招待してあげたんだから、もうちょっとサービスしてくれても良いんじゃない?」
おどけた口調で笑いを誘うと、凜華にも追加注文するように促す。
(ファインプレイしたんだから、追加ボーナスもよろしく)
そう言外にふくめてウィンクしてくる任里に、狩人は肩を竦める。
金にがめついが、手を汚すことに躊躇しない女だ。有能な働き手には、それ相応の報酬を与えるのが狩人の考えだ。「しょうがないな」と苦笑いを浮かべなら追加のアルコールを差し出してやる。
――それから十五分が経過した……
瞼が異様に重くなっているのに、凜華は気づいた。口にしたのはカクテルを二杯、普段ならこれぐらいの量であれば、酔いなどしないはずだった。
だが、気怠さは全身に広がり、スツールに座っているのも難しくなってくる。ふらり、ふらりと上体が揺れて、バーテンダーが心配そうに声をかけてくる。
だが、激しい睡魔に苛まれた彼女には、その言葉を聞き取ることもできなくなっていた。ついには、目の前のカウンターに上体を突っ伏すと、スゥスゥと寝息をたてはじめてしまう。
「やったッ!!」
それを見て、サクラをしていた若い男女が歓声をあげた。それを咎めることもなく、狩人は興奮が冷めやらぬ彼らと笑顔で握手を交わしていく。
この後、彼らは先の三人組と合流して、別の場所でおこなわれる慰労会に参加する予定だ。そこで沙莉による奉仕を受けることになっている。
任里に先導された彼らはゾロゾロと消えていくと、店に残るのは凜華と狩人だけになる。
寝息を立てる彼女を軽々と抱え上げると、店の裏口から出ていく。目の前には繁華街に隣接するホテル街が広がり、そこには撮影に協力してくれるラブホテルがあるのだった。
傍から見れば、今の二人は繁華街で酔った彼女を連れているカップルにしか見えないだろう。誰に疑われることなく、撮影場所へと移動する。
そうして、赤い照明の灯された個室へと連れ込むと、凜華の身体はベッドの上に転がされた。荒ぽく扱われても目覚める様子はなく、呑気に寝息を立てる。
「さて、それでは愉しませてもらおうか」
冷笑をうかべて凜華を見下ろす狩人は、ゆっくりと彼女の衣服を脱がしにかかるのだった。
久遠 真人
2024-10-03 04:09:08 +0000 UTC久遠 真人
2024-10-03 04:08:01 +0000 UTCくすお
2024-10-02 12:00:38 +0000 UTCくすお
2024-10-02 11:58:22 +0000 UTC