足早に寮に向かう途中、背後からクララを呼びとめる声がした。
ウィン王太子殿下だ。
「クララ嬢?……その頭は?」
微かに震えるような声。
酷く面倒な予感がする。
恐る恐る振り返ると、ウィン殿下が表情を強張らせてクララを見つめている。
「それは……一体……」
当然の質問に何と答えていいのか分からない。
「あ、えっと……。これは、その……。」
「誰にやられたんだ?」
言い淀んでいるとウィン殿下が喰い気味聞いてくる。
「あの、えっと、実は、……ト、トリモチ的な何かが髪に着きまして……」
「トリモチ?」
「はい、その、何か、忘れ去られた罠的な物にひっかかってしまったらしく、髪にべったりと……」
若干苦しい言い訳だが、これで押し通す事にした。
言い辛そうにそう言って俯くクララをウィン殿下は優しく抱きしめた。
「可哀想に……」
そう言いながら頭を両手で撫でまわす。
そして、短くなった髪に唇を寄せる。
「殿下……私の不注意ですのでお構いなく……」
そう言ってウィン殿下から距離を取ろうとするクララを離れないように片手でぎゅっと抱きしめたまま、もう一方の手で尚も髪を撫でまわす。
「あの……殿下、このような私などにどうか構わないで下さい。髪も私自ら切ってしまってこのような不格好な形になってしまっただけですから……」
そう言って離れようとするが、べったりくっついて離れない。
その上髪に頬ずりまでしている。
ってかなんか長い。
撫でまわしてる時間が異様に長い。
『コイツ……触りいだけだな?!』
その後も、誰にやられたのか執拗に聞かれたが自分でやったと押し通し、なんとか誤魔化した。
相変わらず頭はなでられまくっている。
この撫でまわしからどうやって逃れるか?……と思案していると、考えを読み取ったのか殿下の手が頭から離れた。
やった!ようやく手が離れた……と思ったが、実は修羅場が訪れようとしていたのだった。
ウィン殿下の影になって見えなかったが、自分の背後(ウィン殿下の目線の先に)どうやらアインス嬢たちがいるらしい。
(※挿絵と位置関係が逆になってます。すみません)
「どういう事ですの?」
アインス嬢から見ると、ウィン殿下に抱きしめられているようにしか見えないであろうその姿に怒り心頭の震える声が耳に入ってきた。
「この女に私の悪口でも吹き込まれましたの?!」
「大方、そのみっともない頭を私達にやられた!とでもおっしゃって、殿下の気を惹こうとなさったのでは?!」
アインス嬢の怒りの低音ボイスが地を這うように響いた。
『うわぁ……墓穴掘りに行ってる』
もともとウィン殿下でなくてもアインス嬢達がクララを虐めている噂は学校中に広がっているのだ。そんな事言ったらこの件に関わってるって疑われるだけじゃねーか!
と、心の中で必死にアインス嬢を諌めるも声に出せないし、どうしようもない。
「何故そう思う?」
ウィン殿下の低い声が響いた。
「何故って、現に同情を惹いて殿下に近づいているではないですか!」
アインス嬢が反論する。
「そうではなく、何故、クララ嬢が『アインス達にやられた』と言ったなどと思ったのだ?」
「それは、下賤な男爵令嬢がウィン殿下のお気を惹くために婚約者である私を貶めようと考えそうな事ですから!」
「……そうか。私はクララ嬢から何故このような髪になったのか理由は聞いたが、アインス達はクララ嬢が何故このような髪になったのか理由は知らないのだな?」
「はい」
「存じませんわ」
「私も存じ上げません」
3人の令嬢達がそう言うと、ウィン殿下は厳しい表情で頷いてその場を立ち去った。
その場に取り残されたクララと悪役令嬢達。
絶対に何か言われる。
ウィン殿下を見送って、そのままくるりと向きを変えその場から立ち去ろうとしたが、無事に立ち去れるわけがなかった。
「お待ちなさい!」
アインス嬢の厳しい声が行く手をさえぎる。
「あなた、まさかウィン殿下に余計な事を言ってないでしょうね?」
ドスの利いた声。
「はい。もちろんです。」
弱めの小声で答える。
とにかく早くこの場を立ち去りたい。
―――でないと……。
「私たちがやったこと、絶対に言ってないでしょうね!!」
大声ではないが腹に響く声が耳に滑り込んだ。
ヤバい!絶対にヤバい!!!!!
アインス嬢は言ってはいけない言葉を発してしまった!
「やっぱりそうですか」
草むらからガサっと音が聞こえ、草の影からウィン殿下の付き人が出てきた。
『うわぁぁぁ……。絶対聞いてると思った……。めちゃくちゃ疑ってたしな……』
そんな訳で、イジメがバレてからのウィン殿下の対応はめちゃくちゃ早かった。
3人の令嬢は速攻で拘束され、殿下の元へと連れて行かれた。
ついでに、クララも一緒に連れて行かれてしまった。
そして、ウィン殿下が下した沙汰が3人の公開ヘアカットだった。
今日の夕方から開かれるダンスパーティーでの余興として、生徒たちの面前で3人の髪を切るというのだ。
どんな髪型になるかはウィン殿下のオーダー次第。
その間必死で3人を庇うも、ますます3人の性格の悪さが浮き彫りになるだけで逆効果しかなかった。
むしろ、ウィン殿下にかなりの高感度を与えてしまって自分の首を絞めただけだった。
※※※※※※
生徒が集まり始めたパーティー会場の一段高くなっているステージに、アインス嬢達3人がカットクロスを付け座らされている。
会場に入る生徒たちがざわめき、色々噂している。
もう何が行われるのか把握しているもの、予想でいろいろ喋るもの、全く知らずにただただびっくりしているもの、皆が小声で喋り会場全体をざわめきで包んでいる。
そんな中、髪を無残に切られた私・クララとウィン殿下が壇上に立っているのだから、生徒達が静まるわけがない。
令嬢達の隣には、ウィン殿下の配下の従者がカット鋏を持って立っている。
アインス嬢の隣に立っている従者だけ、何故かカミソリを手にしている。
会場に人が集まり、ウィン殿下の挨拶が終わると、皆各々ダンスを踊ったり食事を楽しんだりし始めた。
が、皆ステージに興味津々である。
アインス嬢の髪に従者の手が触れる。キツく従者を睨む。
「危ないので動かないで下さい」と頭を押さえられ、それ以上抵抗をせずそのまま正面を睨んでいる。
アインス嬢の頭に剃刀の刃が当てられ、真ん中からジョリっと髪を剃り落とされた。
落とされた髪は縦巻きロールにひっかかり床に落ちることなくその場に留まった。そして、カールしていない前髪だけカットクロスに静かな音をたて滑り落ちた。
頭のど真ん中に剃刀の通った綺麗な筋が出来る。
気丈に眼前を睨んでいたアインス嬢の瞳に涙が浮かんだ。
しかし、そんな事おかまいなしに剃刀を持った従者は頭頂から容赦なくどんどん剃刀で髪を落としていった。
ロールひと房分を剃り落とすと、丁寧にそれを手に取り、後ろのテーブルへと運んで行く。
ジョリジョリという音が微かに壇上で聞こえる。
その音が鳴り響く度に、アインス嬢の頭頂から髪が剃り落とされていく。
やがて眉から上部分のみすべて剃られた落ち武者状態になった時点で、従者の手が止まった。
同時進行で隣では、ツバイ嬢が前髪に鋏を入れられていた。
眉の上のかなり生え際に近いラインで鋏を当てられ、そのまま一気に切り落とされる。
長い前髪で隠れていたツバイ嬢の瞳があらわになった。
そのまま従者の手は止まることなく、長い髪を無造作にどんどん切り進んでいく。
ピンク色のカットクロスの上にツバイ嬢の髪が滑り落ちて行き、どんどんと長い髪が溜まっていく。
サイドの髪は耳の下あたりで一旦ざっくりと切られ、その後、ひと房ずつ指で挟まれ、髪の根元近くから切られて行った。
従者は頭の上から毛束を掴み、根元付近で鋏を入れ髪を切り落としていく。前髪もサイドも関係なく、全て短くカットされている。
わざとなのか不慣れなのか、かなり不揃いに短く髪を切ったまま、一旦従者は手を止めた。
また、ドライ嬢も同じく、ツインテールをほどかれ、長いサイドの髪を掴まれ、バッサリと切り落とされていた。
耳の上くらいに鋏を入れそのまま一気にドライ嬢の髪が切られる。
ドライ嬢は半泣き状態だ。
そのまま、横半分耳の上くらいの長さで切り揃えると、従者は鋏を剃刀に持ち替え、下の髪を削ぎ切りしていった。
長かったドライ嬢の髪はどんどん剃り落とされ短くなっていった。後ろ頭の下部は坊主に近い状態になっていく。
アインス嬢に比べればまだ数ミリの長さを残しているだけマシと言えるのかも……くらいの状態。
右半分の眉より少し下の髪を切り落とされ、下半分はほぼ坊主状態。
そこで、従者は剃刀を鋏に持ち替え、前髪の眉よりかなり高い位置に鋏の刃をあてた。
そしてそのままその位置で前髪を右半分だけ切り落とした。
右半分のみ、超短いおかっぱ状態になっている。その状態で、従者は一旦手を止めた。
ダンスの音楽が変わった。
密着してゆっくり踊るタイプのものだ。
婚約者カップル達がここで何曲か踊りを楽しめるようなプログラムになっている。
アインス嬢達のカットクロスがここで一旦外された。
めちゃくちゃ中途半端な状態だ。
ウィン殿下が3人の前に立ち、「せっかくのパーティーなので一旦ダンスを楽しんではいかがか?」とステージを降りるように促した。
令嬢達は顔を紅潮させて、ステージ下に降りて行った。
『うわぁ~、ひでぇ……。これは過酷。あの頭で男性を誘えと??!!』
会場の男性たちは微妙にアインス嬢たちから目線を逸らしている。
まあ、それはそうだろう。
あの髪型もそうだが、親がそこそこ実力をもっている侯爵令嬢と、伯爵令嬢たちだ。誘われれば無下にできないが、ウィン殿下の怒りを買っている。
どういう態度で接していいのかわからないはず。
彼女たちには婚約者がいるが、婚約者達も極力見つからないように隠れているようだ。
アインス嬢の婚約者はウィン殿下だが、誘えるわけがない。
それでも、令嬢たちは無難な男子生徒に声を掛け、踊っていた。
強い!!
ラバース曲が終わると、3人は再びステージに戻され、カットクロスを付けられ、先ほどの続きで髪を切られる事になった。
パーティー終盤に3人の髪が仕上がった。
アインス嬢は見事なまでの剃髪。それはもう美しく輝く頭を晒している。
ツバイ嬢はベリーショート。というか、スポーツ刈りに近い髪型。
ドライ嬢は昭和初期並のおかっぱ!!頭になんか乗せてる感満載のきのこヘアのおかっぱだ。
カットクロスを外され、ステージから降りる令嬢達を無言で見詰める観衆達。
誰も声を出せない状態だ。
しかし!やっぱり、剃髪してもアインス嬢は美しい!!
いやマジで!!
そして、男の子みたい……と泣きじゃくっているツバイ嬢もよく似合ってる!!そっちの方がモテる!!(俺と女の子に)
その上、半泣きになりながら短く切られた髪をずっと触ってるドライ嬢、昭和テイストのおかっぱここまで似合う可愛さを秘めた子は貴女くらいです!!好きです!!
やはり彼女たちは尊い!!
明日も虐めて下さい!!
そんな事を思いながら帰ろうとしたが、ウィン殿下に引きとめられてしまった。
あーー…なんかアインス嬢と婚約破棄するとか。
そして、プロポーズ……。もう、どうしよう……。
寮に帰って泣きながら髪を切られてる彼女たちの思い出にたっぷり浸りたかったのに……。
とりあえず、丁重にお断りしてその場を飛び出してみた。
翌日、ウィン殿下からのプレゼントが運ばれてきた。
見覚えのある髪型をしたカツラだ。
……。
アインス嬢。
これはこれで嬉しいので早速つけてみた。
これでアインス嬢の前にでる勇気はちょっとなかったが。
それから1週間、アインス嬢は学校の授業に顔を出さなかった。
ツバイ嬢とドライ嬢はあの頭のまま、学校に出てきていた。
(強い)
アインス嬢がいないせいか、その頭のせいか凄く大人しかった。
で、1週間後の今日、アインス嬢が姿を現した。
教室に入ってきたアインス嬢を見て、皆二度見する勢いで目を見張った。
アインス嬢はかつらを被ってたのだ。
黒とピンクに分れた派手なかつらを。
これ、あれですよね。ツバイ嬢とドライ嬢の。
パンクっぽく見えなくもないけど……時代が追いついてない。
でもやっぱりアインス嬢は美しい!!
そんなわけで、これからも楽しい学園生活が送れそうな気がする!
(ある問題を無視すれば)
終わり
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※一応、カット絵が少しあるので色とか塗ったら後日まとめて更新します。
※色とか服が微妙に変わってる。ごめんね。
※どーでもいい話ですが、名前の由来
ウィン・オーエス殿下はwindows・os(PCですね)
クララ・ウイルスィーはクラッキング・ウイルス(攻撃してますね)
アインス・ノートンは1番目・ノートン(ウイルス対策ソフト 守りの家柄ですね)
ツバイ・ウィルバスタは2番目・ウイルスバスター(ウイルス対策ソフト)
ドライ・カルペルスキーは3番目・カルペルスキー(ウイルス対策ソフト)
分かった人も多いと思います。
※お話の最後の『ある問題を無視すれば』のある問題=ウィン殿下との婚約結婚です。
趣味で王子とクララの結婚後?のお話(というか絵)を描くかもです。
思ったより塗りに時間がかかりました。次回こういうのを作る時はもっと綺麗に見えて簡単に塗れるような凄い方法を編み出して(というか練習するだけですが)挑戦しようと思います。
では読んでくれてありがとう!!
次回は男の娘バトルの続きを描きます
アデル
2021-06-03 14:56:37 +0000 UTCアデル
2021-01-08 11:30:07 +0000 UTCアデル
2021-01-07 11:57:28 +0000 UTChffuio887648
2021-01-07 07:30:24 +0000 UTC