あれから、どれくらい経っただろう。
一週間? 二週間? いや、もうそんな感覚も曖昧になってきている。
気づけば、俺の朝は、洗面所の鏡を見つめることから始まるようになっていた。
そこに映るのは、もはや“かつての男だった俺”ではない。
すっきりと細くなった顎のライン。毛穴の目立たないつるんとした頬。うっすらとピンクが差した唇。
「……もう、女の子じゃん……」
思わずつぶやいたその声も、すっかり甘く響くようになっていた。
自分の声ですら、自分のものだと認識するのに、少し時間がかかるようになっていた。
◆
胸は日ごとにふくらみを増し、今では両手でそっと包まなければ重みを感じるほどだ。
最初こそ、乳首がブラの生地に擦れるたびにびくついていたけれど、今はその感覚さえどこか懐かしく感じる。
むしろ、ブラでちゃんとホールドされていないと落ち着かなくなってきた。
股間の変化は……より静かに、けれど確実に進行していた。
朝、トイレで下着を下ろすと、そこにはもう「男性の象徴」はほとんどなくなっていた。
あれからチ〇コはどんどん小さくなっていき、ついには女性の一番敏感な部分──「クリ〇リス」へと変わっていった。
つるっとした陰部には、うっすらと“線”のようなものが浮かび上がっていて……指先で触れると、かすかに割れ目のような感触がある。
……怖い。
なのに、目が、指が、離せない。
触れて、確かめて、ゾクゾクとする何かを感じて……そして、恥ずかしさに全身が震えた。
◆
例の下着を着用し始めてから、ちょうど1か月が経った。
カードに記されていた「中断厳禁」の期間だ。
もう、下着を着続けなくてもいい。けれど、体はすでに完全に変化してしまった。
もはや、下着を着けようが着けまいが、これ以上の変化はない、つまり完全に女体化したという事なのだろう。
この1か月間、俺は毎日、女の体でしか味わえない感覚に溺れていた。
羞恥、快感、戸惑い、そして……どこか甘美な“支配”感。
自分の身体を自分の意思でコントロールできないような、不思議な感覚。
「これから俺は、どうなってしまうんだろう……」
ひとり、小さくつぶやいた。
◆
もちろん、この1か月で、周囲の目も変わっていた。
最初にそれを指摘してきたのは、両親だった。
「ねぇ、あんた、最近ちょっと雰囲気変わったよね。お肌とか、すごくきれいになってない?」
母さんは朝の食卓で、そんなことを言い出した。
父さんも、
「まぁ……いいんじゃないか? 自分らしくいられるなら」
と、何かを悟っているかのように続けた。
──女の子になりたかったなんて、これっぽっちも思ったことなんかなかった。
けれど、「女性用の下着を買ったら体が変化した」なんて言っても信じてもらえるはずがないし、何より自分の性癖を親に伝えるなんて、できるわけがなかった。
「……う、うん。実は、昔から……女の子になりたかったんだ。でも……できれば、今までと同じように接してほしい」
それしか、言えなかった。
心の中は、ぐちゃぐちゃだった。
友達にも、同じように伝えた。
最初は気まずそうだったやつも、日が経つにつれて、今まで通り接してくれるようになった。
だけど、「あっ、今、女の子として気を使ってくれたな」ってわかると、俺の胸の奥がチクリと痛んだ。
でも、否定はできなかった。
──だって、もう俺は“そういう見た目”なんだから。
◆
そんなある日。
大学に進学していた姉ちゃんが、久しぶりに帰ってきた。
もちろん、この変わった俺の姿を見るのは初めてだ。
「……あんた…その見た目……?」
俺の姿を見るなり、姉ちゃんは目を丸くした。
そして、何も言わずにリビングのソファに腰を下ろした。
しばらく沈黙が続いて、俺は意を決して口を開いた。
「姉ちゃん……俺、実は昔から女の子になりたくて……」
──今日もまた、自分の本心を偽って、言い訳をする。
「あー、やっぱりね。私は昔から気づいてたよ」
「え……?」
「だって……昔、私の制服とか、下着とか……こっそり着てたでしょ?」
──頭が、真っ白になった。
「え、そ、それは……! な、何の話……っ」
「隠してたつもりだったんだ? さすがに気づくよ。かわいいところあるなって、黙ってたけど」
姉ちゃんは、少しだけ意地悪そうに笑った。
その笑みが、なぜか身体の奥をゾワゾワとさせた。
──全部、バレてた……?
「ちょっと私の部屋行こっか?」
【4章へつづく…】
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