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桜梅桃華@女装・TSF小説
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残業の果てに辿り着いた、僕の新しい世界:5

誰にも知られてはいけない昼休み

――午前中から、落ち着かない。


デスクで見積書を作成していた僕の肩に触れる、真帆の冷たい指先。そのままスーツ越しにブラの肩紐を摘まれる。


「レンくん、これ何?」


「ひゃっ!……ダメだって……!」

喉がひくつき、声が上ずった。誰かに聞かれていないかと脈が早くなる。


「ふふ、反応かわいいね」

真帆はクスクス笑って離れていく。引っ張られてずれたブラの肩紐を、周囲にバレない様にこっそりと直した。



トイレに行く時も気が休まらない。もし隣に誰か立たれたら、赤い下着が見えてしまう。

結局、個室に閉じこもるしかなかった。

手を洗い鏡に映る自分の顔は赤く火照り、思わずため息がこぼれる。


男子トイレから出ると、待ち構えていたように茜が声を掛けてきた。


「あれ~、レンさん、今日は男子トイレなんですか~?」

わざと大きな声を張り上げる。その場にいた社員数名がこちらを振り返った。


「ちょっ!そんなの当たり前だよ!いつも男子トイレだよ」

必死に返す自分の声が震え、視線が一斉に刺さる。頬が熱く、背筋を冷たい汗がつたった。



昼休憩が近づく頃、瑠衣に呼び出される。


「レンくん、ちょっと1階の資料室に来て」

その声色は穏やかなのに、相変わらず逆らえない力があった。


資料室に入ると、真帆と茜がすでに待っていた。ひんやりした空気に紙の匂いが混じる。普段は人が立ち寄る事が無い、過去の資料が眠っている部屋。


「レンくん、忙しい時に悪いんだけど、お昼買ってきてほしいの」


「え……お昼ご飯ですか?」


「もちろん、これに着替えてね」

差し出されたのは“あの”経理の制服。グレーのベストとネイビーのタイトスカート、土日で洗ってくれたのか、ほんのり甘い柔軟剤の匂いが香る白いブラウス。そして茜のお古の黒のパンストが添えられている。


「いやいや、さすがに日中は無理ですよ!会社の人に見られたら……!」


「裏口から出れば大丈夫。コンビニにお弁当買いに行くだけ。ほんの10分だから。ほら、これ持って」


渡されたのは、ピンク色の長財布。本革で艶があり、高級感があるが、まさしく女子の持ち物そのものだ。


「ちょっと…本当に勘弁して下さい……」


「レンさん、似合ってるから誰も男だなんて思いませんよ」


「それに……私たちに逆らえないこと、レンくんが一番よく分かってるよね?」

その笑顔と射抜くような視線に押し込まれるように、僕はスーツのボタンを外した。赤い下着があらわになり、羞恥の熱が胸元を焼く。


Lサイズのブラウスに袖を通し、裾を整える。グレーのベストを重ね、青いリボンを結ぶ。ネイビーのスカートを腰まで上げ、最後に光沢を帯びた黒いパンストを足に滑らせると、太陽の光を反射して肌が艶めいて見えた。


そこにはまさしく「女子社員」が立っていた。肩の力を抜いたつもりなのに、首筋から背中にかけて汗がじわりと滲んでいる。


「今日はメイクをする時間が無いから、すっぴんだね」

「じゃ、元気に行ってらっしゃーい!」


「うう……」


息が詰まる。足がすくむ。

ピンクの長財布を腕にはさみ、裏口のドアノブに手をかけるしかなかった。



扉を開けると、外の空気が一気に肺に流れ込んだ。昼休み前の街は人通りが多く、視界の端に映る誰もがこちらを見ているように感じる。スカートの裾を押さえながら歩くだけで、全身が視線にさらされている気がして、心臓が痛いほどに鳴った。

「だ、大丈夫……ただの買い出し……。すぐ終わるから……」

自分に言い聞かせる。コンビニまでの数十メートルが果てしなく遠く感じられた。


店内。

ドアの電子音が鳴った瞬間、空気が変わったように思えた。弁当コーナーで手を伸ばす指先が妙に震える。スカートの裾が誰かの視界に入っていないか気になって、背中が熱い。


視線を合わせないようにレジへ。


「……温めますか?」

店員の声。

僕は咄嗟に、女の子らしい高さを意識して答える。


「……お、お願いします」

自分の声がはっきりと響いた瞬間、耳まで真っ赤になる。声の余韻が店内に残っている気がして、喉が焼けつくようだった。

本当に、バレてない……?レジ対応をした店員、そして後ろに並んでいるサラリーマンの視線が刺さる。呼吸が浅くなって、指先が冷えていく。


レシートを受け取る手が汗ばんで、うまく掴めない。ビニール袋の持ち手がひっかかって、カサカサと音を立てるたび、全員の耳がそこに向いている気がした。


買った弁当の袋を抱えながら店を出る。

心臓が喉に張りついて、鼓動がうるさいほどだ。足音がやけに響いて、すれ違う人が振り返ったように見える。


俺はそのまま、足を重くしながら資料室に戻っていった。冷たい空気に触れた肌はまだ汗ばんでいて、スカートの裾がまとわりつく。


渡された弁当を3人に差し出すと、真帆が「ありがと、レンちゃん」とわざとらしく笑った。その一言が胸を締めつけ、羞恥を塗り重ねていった。



逃げるように自分のデスクへ戻る。今日は外食する気分にはなれない。机の一番下の引き出しから、残業用に置いてあったカップラーメンを取り出し、お湯を注いで簡単に昼を済ませた。


もうすぐ昼休みが終わる。周囲の席にも社員がちらほら戻り始めていた。その時だった――。


「レンさん、昼休みどこに行ってました?」

営業部の後輩、小山千尋が声を掛けてきた。


体中から血の気が引いた。なんでそんな事を聞くんだーー。


【6章へつづく…】

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