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桜梅桃華@女装・TSF小説
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残業の果てに辿り着いた、僕の新しい世界:9

甘い命令

結局、僕たちはいくつもの店舗を回った。

最初に試着したピンクのフリルワンピースも、真帆に勧められたタイトスカートも、結局は購入することになった。

ほかにもふわふわの可愛らしいパジャマや、ニーハイソックスまで。袋の中は、どこからどう見ても“女の子の私服”ばかりだ。


千尋はその間、ずっと笑顔だった。

僕が「私」と言って、女の子っぽく話すたびに、嬉しそうに頷いてくれる。

その瞳に疑いの色はなく、本当に僕が心を開いたのだと思っているようだった。


(違う……違うのに……!)


心の中で何度も叫ぶのに、口から出る言葉は全部“女子口調”。

背筋に冷や汗を垂らしながら、ただ従うしかなかった。



百貨店を出ると、ちょうど閉店のアナウンスが流れた。

夜の風が吹き抜け、紙袋を揺らす。


「今日は本当に楽しかったです!また一緒に行きましょうね」

千尋は無邪気に笑いながら、僕の手を軽く握った。


「……うん、ありがと。わ、私も、すっごく楽しかったよ……」


喉が焼けるように熱く、声が震えた。

女の子口調でお礼を言うことほど、恥ずかしいことはなかった。


駅の改札をくぐっていく千尋の後ろ姿を見送りながら、胸の奥がぐしゃぐしゃにかき乱される。

彼女にとって僕はもう“心の中に女性の心を宿した男”として見られるのだろう……。



「さて、レンくん」

瑠衣がわざとらしく声を弾ませた。


「せっかくだし、近くのカフェで休んでから帰ろうか」


「えっ……まだ寄るんですか……?」

足がすでに重いのに、逆らう選択肢は残されていなかった。

真帆もにこりと笑い、当然のように先導していく。


僕は小さなため息を押し殺しながら、その後を追った。


夜のカフェは、照明が落ち着いていて静かだった。

心地のいいはずのジャズの音色が、今はうるさく感じる。


丸テーブルに腰を下ろすと、今日一日の緊張が押し寄せてくる。

アイスコーヒーの氷をストローでかき混ぜながら、思わず口が開いた。


「……今日、ほんと、恥ずかしかったんです……」


真帆が「どのへんが?」と楽しげに促す。

僕は俯きながら、ひとつずつ吐き出した。


「まず……昼休み……千尋ちゃんに、あの事務服姿を見られたこと……」

あの日の自分の映像が頭に蘇り、耳まで熱くなる。


「それに……真っ赤な下着。ブラを着けている事が……千尋ちゃんに気づかれて……」

声が震え、言葉が途切れる。

真帆が小さく笑った気配がした。


「あと……いちばん辛かったのは……」

胸を押さえながら、喉を絞り出すように続ける。


「……僕が……本当に女の子になりたいんだって……千尋ちゃんに勘違いされたこと……」


言った瞬間、頭がくらくらした。

羞恥と屈辱で胸が詰まりそうになる。


「なるほどねぇ」

瑠衣が満足そうに頷き、カップを傾ける。

その横顔は、まるで上手く調教が進んでいることを確認しているようだった。


「でもレンくん、“私”って自然に言えてたわよ。千尋ちゃん、すごく嬉しそうだったじゃない」


「……そ、それは……」


否定したいのに、言葉にならない。

真帆はスマホをテーブルに置き、軽く笑った。

画面には、今日の僕の姿が映っている。

ピンクのフリルワンピースを試着して笑う僕――いや、“私”。


「だ、大丈夫だよね……?あの女子トイレから出てくる画像は……」

必死に問いかける。


「もちろん誰にも言っていないし見せていないよ。千尋ちゃんにもね」

瑠衣の声は甘いのに、逃げ場を塞ぐように冷たい。


もう元の生活には戻れない――その現実だけが突きつけられていた。



カップの縁に口をつけたまま、瑠衣が何気ない調子で口を開いた。

「そういえばさ……レンくんって、普段、自慰行為ってしてる?」


「――――えっ!?」


「オナニーの事だよ、オナニー」


指先が震え、持っていたグラスからカランと氷が鳴った。

あまりに直球の問いに、喉がひゅっと塞がる。


「え、えっと……その……」

必死に言葉を探すのに、舌がうまく回らない。

赤くなっていく顔を隠そうと視線を落とす。


「なにそれ、そんなに恥ずかしい質問?」

わざとらしく首を傾げる瑠衣。

まるで自分の狼狽を楽しんでいるようだ。


「人並みには……してます……」

絞り出すように答えると、彼女の瞳が一段と輝きを増した。


「ふふっ、人並みってどれくらい?」

今度はもっと具体的に突っ込んでくる。

逃げ場を与えるつもりなど、はなからない。


「……しゅ、週に……三回くらい……です」

机の下で拳を握りしめ、耐えるように吐き出した。

羞恥が全身を駆け巡り、耳の裏までじんじん熱い。


「へえ、三回ね。意外と控えめなんだ」

瑠衣は唇を尖らせ、面白そうに小さく笑った。


「男の子なら、もっと欲望に正直でもいいと思ったけど」

真帆も横から話に入ってくる。


「な、なんでそんなことまで……」

情けなく抗議すると、彼女の表情はさらに楽しげに緩む。


「だって、これからは私たちが管理してあげるんだもん」


囁くような声に、思わず背筋がぞわっと震えた



「……か、管理……?」


「そう。普通にオナニーするのは禁止」

カフェのざわめきの中で、その言葉だけが異様に鮮明に耳へ刺さる。


「き、禁止……?」


「要はおちんちんを擦って射精するがダメって事だね」

瑠衣は当たり前のように続ける。


「その代わりね、今日買った女の子の服。まずはあれを必ず着ること。ブラウスでもスカートでも、下着でもいい。レンくんが“女の子として”扱われてる服。必ず身につけてから」


胸の奥がどくん、と跳ねる。

羞恥と屈辱が一気に押し寄せて、言葉が出てこない。


「でね、女の子の服を着たまま、当分は乳首だけで感じる練習をしてもらう。触って、つねって、擦って……自分の身体を“女の子みたいに”開発するの」


羞恥と恐怖が混じる。

カフェの空気が急に薄くなった気がする。


「そ、そんな……無理です……!」

反射的に否定の声が漏れる。

だけど、その否定の弱々しさすら、彼女の笑みに餌を与えてしまった。


「無理?ふふ、最初は誰だってそう言うの。大丈夫、すぐ慣れて乳首だけでイケるようになれるよ。女の子みたいにね」

瑠衣はまるで先生が生徒を諭すように、やわらかな声で告げる。

しかしその優しさが、かえって逃げ道を塞いでいく。


「今日、帰ったらすぐ実行してね。感想は明日、ちゃんと報告してもらうから。サボったりしたら……どうなるか、わかってるよね?」


「っ……」

言葉を飲み込み、唇を噛んだ。

抗えない関係。

選択肢など、最初から存在しない。


カフェの天井から流れるBGMが遠く、ぼやけていく。

冷えたアイスコーヒーのグラスを握る掌には、じっとりと汗が滲んでいた。


新しいルール。

それは甘く残酷に、僕の世界を塗り替えていく――。


【10章へつづく…】

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