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さすらいのヒモ
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日本とよく似た『N本』という国と文化を無条件で崇拝するようになったリリスとバーヴァン・シーが、N本の底辺校でカースト上位の強い女として大好きなオタクくんに優しいギャル彼女になっているお話。(導入)


 『崇N侮外都市アキハバラ』とは、数え切れないほどの『ガイジン』が限られた数の『N本人』のために存在する、封建的でありながら開放的な、『国際都市』である。

 既存の秋葉原よりも遥かに大きな、それこそ南関東と同等の広さと莫大な人口がひしめくその巨大都市だが、外国人とN本人の比率は数字をつけるのが馬鹿らしくなるほどに外国人のほうが圧倒的に多い。

 また、この莫大な数の外国人の中でも、単なる観光客から就労や留学を目的にビザを取得している者もいれば、さらには国籍を取得して永住をしている帰化人など、一口に外国人と言っても様々なグラデーションが存在している。

 それでも、アキハバラに限らず、その外に広がっているN本という世界には、共通して『N本人』が上位であり、『外国人』が下位であるという価値観が確かに存在するのだ。

 数の上では外国人と称されるほうが圧倒的な多数派だというのに、N本人という圧倒的な少数派がこの世の神様のように扱われている——そんな矛盾がこの世界には存在するのである。


 そして、アキハバラには複数の学校が存在するが、我々の知る日本がそうであるように、それぞれの学校に偏差値という形で明確な格差というものが存在している。

 偏差値の低い学校は入学しやすいが様々な人間が集まるために問題が多く発生し、逆に偏差値の高い学校は入学する生徒が厳選されるためにマジメな生徒が多い————というと、偏差値の高い学校にもまた独自に異なった問題が発生することも多いために語弊が生じてしまうのだが、そのような在籍する生徒の性質に違いが出るのは事実だろう。


 また、人口比からも分かる通り、多くの学校は『外国人の学生たちだけが在籍している』という状況がほとんどだ。

 さらに特権階級であるN本人はそもそも学校に通っていない人物も多いため、『N本人が在籍している学校』というだけでその学校は進学率や模試の成績、部活動での活躍などよりも、よほど入学希望者を増大させる要因となるほどである。

 それほどに、N本人の学生(あるいは教師)という人物は非常に希少なのだ。


 そして、往々にして『N本』の世界に『迷い込んでしまった』、そんなN本人が学生生活を送る際に選ばれる学校というものは、元々が優秀な成果を出している学校であることが多い。

 優秀な学校には優秀な生徒が集まり、そして、優秀な生徒は基本的に行儀が良い——言葉を飾らずに言うのならば、ヤンキーやギャルというような『頭の悪い』、『乱暴』な学生が入れないような名門校にこそN本人は通うことになるのである。

 ということはつまり、この『落ちこぼれ』と呼べるような劣等生や不良学生などが集まる学校も存在するということだ。



 ————からん、ころ~ん。



 学校のチャイムとは関係なく、安っぽい鐘の音が鳴り響く、この『アキハバラ第三商業高校』は、まさにその例に当てはまるお手本のような低レベルな学校である。


 『サンショウ』と呼ばれるこの底辺校はアキハバラ学園区の片隅に位置し、その悪立地に相応しいどこか煤けた灰色の雰囲気を放っていた。

 校舎の外壁はところどころがひび割れており、同じく校門にもまた当校の生徒なのか他校の生徒なのかはわからないが、とにかく目を覆いたくなるような下品な落書きで汚れてしまっている。

 校庭には雑草がはびこり、校舎の内装もまた汚れており、場所によっては割れた窓ガラスを雑にガムテープで補修しただけで放置されていた。

 もはや底辺校というよりも、絵に描いたようなヤンキー高校である。

 本来であればこのような風紀どころか治安が悪い学校にN本人がいるはずがないのだが、そのN本人たっての希望でこの底辺校にもN本人が入学してきたのだ。


「ふひぃ……午前の授業終わったぁ。やっと昼休みだよぉ」


 『肥田太(コエダ・フトシ)』というそのN本人は、窓際の最後列というすべての生徒が望む最高の席で、その名の通り肥えて太った体を、ふんぞり返るように椅子へと預けた。

 ギチギチと悲鳴を上げるように椅子が音を出すほどの巨体の太は、その名の通りずんぐりむっくりという言葉がよく似合うデブ体型である。

 しかも、ただ太っているというだけではなく、その身長は160センチにも満たないチビ身長で、ダラダラと流れてる汗がシャツを湿らせて腹に張り付かせ、その天然パーマのチリチリ髪と、メガネが皮脂でテカテカになった、実に不快な容貌をしていた。

 平凡でさえないなんて言葉を使うことすら贅沢に思えるような、『チビ』で『デブ』で『メガネ』という、『異性に嫌われる男子高校生』の『三重苦』を担った人物でもあった。


 また、太は幼い頃からそのチビ・デブ・メガネという特徴が変わらないために、常に女子からは汚物のように扱われ、そして、異性にモテない男子は当然のように同性からも軽んじられるために、スクールカーストの底辺としてひっそりと生きてきた。

 そのため、今の時代からすると少し古臭いルートではあるかもしれないが、自分を軽んじない二次元の世界に耽溺するようになった。

 つまりはチビで、デブで、メガネで、さらにはオタクというまさしく最底辺の人物なのである。

 そんな、女性に好意を向けられるはずのない太だが、今は違う。



 ————今の太は、『N本人』なのである。



「相棒~❤ 一緒にメシ食べよっか~❤」


 昼休みを迎えたことでリラックス状態だった太の横から、一人の美少女がお弁当箱をその机の上に置きながら話しかけてきた。

 息を呑むような美貌の持ち主だった。

 色を失ったかのような灰色の髪を毛先だけ鮮やかなパープルピンクに染めて、それらの長い髪を可愛らしくツインテールにまとめている。

 小さな顔の中に緑色に光っている猫のように大きな瞳がパッチリと開かれており、高く伸びた鼻と彫りの深いパーツは、アジア人らしいのっぺりとした塩顔の太とは実に正反対なもので、そこに浮かぶニコニコとした笑みは、時折チロリと飛び出る赤い舌もあって、どこか挑発的な印象を与えた。


 そして何よりも特徴的なのはその服装である。

 アキハバラ第三商業高校の制服であるブレザーを着崩した————いや、もはや着崩したとも言えないほどに、その服装を淫靡に着こなしているのだ。

 ボタンはそもそもとして結んでおらず、その可憐な美巨乳を持ち上げるように胸の下の位置で裾をぎゅっと固結びにして前を留めているだけである。

 当然、『見せブラ』とは言っても、グリーンを基調としたヒョウ柄のブラジャーは大きく露出されており、おっぱいの下で結んだシャツの裾がその美巨乳を持ち上げて、長い谷間を見せつけて、否応なしに視線を集める格好になっていた。

 さらに、スカートも限界ギリギリまでに短くしており、もはや膝上何センチというよりも股下何センチと表現したほうが数値が小さくなるほどの、マイクロミニスカート丈だ。

 くるりと一回転をしただけでその下にある、見せブラと同じように派手なヒョウ柄のパンツが丸見えになってしまうことは間違いないだろう。


 俗に言う、『アメスクギャルスタイル』である。

 腰に巻いたオシャレな太く黒いベルトや、その中で一つだけ無骨な印象を与える、登山用のように物々しい黒いブーツさえも、どこか淫靡な印象を与えてくれるものだった。

 まさしく、ファッションに疎いオタクにとって、現実のトレンドを完全に無視した理想のギャルファッションと言えるだろう。


「リ、リリス……! う、うん! ご飯、食べよう! リリスの愛妻弁当……ぶひひ!」


 そんなアメスクギャルの名は、『リリス』。

 古代メソポタミア神話において悪霊や夜の精霊として知られ、ユダヤ教においてはアダムの最初の妻としても引用されている、『英霊』の一人である。

 夜を司る存在であるリリスは、このN本に存在する聖杯によってバーサーカーのサーヴァントとして召喚された。

 さらに規格外の魔力リソースを誇る聖杯の力で『マスター』の存在を必要としないまま活動できるという、このアキハバラでは数え切れないほどに存在する『はぐれサーヴァント』だった。

 このN本という世界を完全に支配している超高度AIたちによって、リリスはサーヴァントではあるものの、N本在住者として登録されて相応の戸籍も所有している。

 そのため、今のように第三商業高校に通うこともできているのだ。


「アテシの愛情たっぷり弁当、たっぷり食べな~❤ 相棒好みの、まっ茶々なお弁当だぞ~❤」


 からん、ころ~ん。


 安っぽい鐘の音が鳴り響く中で、リリスは太へと背後からむぎゅりと抱きついた。

 そう、このN本に召喚された『このリリス』は、太を『相棒』と呼んでその美巨乳をベトベトの汗ばんだ背中につけることも躊躇わず、むしろ、太のすえた体臭を吸い込むことに歓喜を覚えるほどにベタ惚れギャルなのである。

 もちろん、このN本に召喚された当初のリリスは、まだ完全な洗脳状態に陥ってはなかった。

 それはリリスに洗脳への耐性があったというわけではない。

 ひとえに、『運命の出会い』を演出するために聖杯が洗脳の深度を調整していただけなのだ。


 聖杯が演出しようとしていたその運命の出会いとは、言うまでもなく太との初対面である。

 同じくN本に突然として迷い込んだばかりの太を見たリリスは、その瞬間に魂をぎゅっと鷲掴みにされたような衝撃に襲われたのだ。

 そこからは、あえて語る必要はないだろう。

 神話に登場するほどの悪霊であるリリスは、人間とは異なる価値観の持ち主であるために、その衝撃に動揺することもなく自分の運命なのだと当たり前のように受け入れて、今では太と『同棲』してお弁当を作るほどに甲斐甲斐しくお世話をしている『お嫁さんギャル』というわけだ。


 そして、恐るべきことにこのお嫁さんギャルはなんとリリスだけではなかった。


「オタクぅ~❤ お前、授業中にアタシのことガン見しすぎてマジ引くつーの❤」


 太のことを『オタク』と呼びながら振り返ってきた、前の席の美少女もまた太のお嫁さんギャルである。

 リリスほどの美少女ギャルを見た後でもなお見とれてしまうような可憐な容貌の持ち主だった。

 飛び散る鮮血を連想させるような赤い髪は波打つようにウェーブを描いており、その丁寧にケアされている見事なロングウェーブヘアーは頬ずりをしたくなるほどの魅力があった。

 リリスと同様に『美少女の条件は小顔だ』と言わんばかりに小さな顔で、それこそその顔をふたつ並べてやっと太のデカいブサイク顔と同じ面積になるのではないかと思うほどの驚異的な小顔だ。

 灰色の瞳はニヤニヤと嗜虐的な色が宿っているが、同時にN本人である太が愛しくて仕方ないという嬉しそうな感情も隠しきれていなかった。


 こちらもまた、リリスと同様にアメスクギャル姿である。

 その形の良い美巨乳を包みこんだヒョウ柄のピンクブラジャー、それを見せつけるように制服のシャツの裾を胸下でぎゅっと乱雑に固結びにして、その驚異的な長い脚を際立たせるパンツが見えそうなほどのマイクロミニスカート姿は、紛うことなきアメスクギャル姿だ。

 今、椅子の背もたれへとお腹を当てて大股を開いて座っているために、正面の太にはブラジャーもパンツも丸見えになってしまっていた。

 本人がいうには『見せブラ』に『見せパン』だからなんの問題もないとのことだが、ギャル文化——いや、女性のファッションそのものにまったく知識がない太にとっては、『見せていい下着』と『見せてはいけない下着』の違いなどわからない。

 ふーふーと鼻息を荒くしながら、その丸見えになっているパンツを凝視してしまった。


「ば、バーヴァン・シーの後ろ姿がエッチすぎるから、授業に集中できなかったよぉ……! スカートをめくりあげてるから、後ろから丸見えだったし……!」


 その太に見せパンをアピールしているアメスクギャルの名は、『バーヴァン・シー』と言った。

 スコットランドに伝わる女の妖精であり、ここではない世界に存在した『妖精國』においては、妖精女王モルガンの娘として母から直々に後継者と目されていた『英霊』だ。

 夜に現れて人間の命を吸って死に至らしめる凶悪なこの精霊は、しかし、N本においては単なるひとりの外国人の牝に過ぎない。

 リリスと同様にサーヴァントとしてこのアキハバラに召喚されて、それをアキハバラを管理している超高度AIに補足されて、現在はこうして一人の外国人高校生としてアキハバラ第三商業高校に通うギャルとして生活をしている。

 バーヴァン・シーは自身がこの世で唯一敬愛する女王モルガンの教えに従い、この第三商業高校を支配する『女王』として君臨していた。 

 何も難しいことはしていない。

 ただその身に宿る暴力を用い、その美貌から溢れ出る一般人では耐えられない威圧感で、全校生徒に服従を誓わせたのである。


 そんなカースト最上位のギャルであるこのバーヴァン・シーも、もちろん、リリスと同様に太と出会った瞬間に一目惚れをした。

 第三商業高校という底辺校にN本人が転校してくるニュースで沸き立っていたものの、『実際にN本人と会ったことのない外国人』の中にはN本人への崇拝が弱い人物も多い。

 その筆頭であるバーヴァン・シーは、『N本人がなんだっていうんだ。こっちは女王モルガンの娘で、妖精騎士なんだぞ』とふんぞり返っていたのだが、太が行った転校の挨拶を見た瞬間に即堕ちガチ恋。

 その場で膝をついて、愛の告白を思わずしてしまったのである。


「キッモ❤ 見せパンに興奮してんじゃねーよ❤ ったく、オタクもN本人なんだからもっとしっかりしろよなぁ、雑魚雑魚じゃんか❤」


 からん、ころ~ん。


 安っぽい鐘の音が鳴り響く中で、バーヴァン・シーは自身の股間に突き刺さる太の視線を受けて、歓喜でぶるりと体を震わせてしまった。

 今ではすっかりからかうような言葉が多いものの、太がすることなら何でも許してしまう『オタクに優しいギャル』となってしまったバーヴァン・シーは、実に挑発的な笑みを浮かべて、むしろ見せパンをさらに見せつけるように脚を大きく、それこそ180度になるほどの開いてサービスをしてしまうのだ。

 さらに、授業中から常に雄の欲望を誘うように、わざとその短いスカートをめくりあげて後ろの席である太へとそのピンクの豹柄なTバックを見せつけていたほどだった。


 当然、そんなことをすれば偶然通りかかってしまった他の人物からも見えてしまう。


「…………………あん? お前、何見てんだ?」

「えっ、あ、い、いや……」

「何見てんだっつってんだよっ!? あぁっ!? 私たちがオタクと楽しくおしゃべりしてる時に、なにパンツ見てんだぁ!? お前に見せるもんじゃねえぞ、このクソ雑魚が!」

「あ~あ……やっちゃったねぇ、チミィ。バーヴァン・シーはお怒りじゃんか~?」


 母である妖精女王モルガンへの深い尊敬からも分かる通り自分が見込んだ人間以外には排他的になるバーヴァン・シーは、たとえ見せパンだとしても、それを太が楽しんで見ていたからこそ他者がそれを盗み見ることを許さなかった。

 ガタリと勢いよく立ち上がり、そして、元々が170センチという長身の体にさらに15センチ近いヒールの赤い靴を履いた高い視点から、その『太のためのパンツ』を盗み見していた外国人の男子生徒を冷たく見下ろした。

 唯一バーヴァン・シーと同等の戦闘力を持つはずのリリスは、そんなバーヴァン・シーの怒りを抑えようともせず、むしろどこか面白そうにニタニタと見つめながら、太の背中へとその美巨乳を押し付けている。


「す、すみませんでしたっ!」

「何に謝ってるんだ、あぁ?」

「バ、バーヴァン・シーさんの……パンツを、見ちまって……すみませんでした……!」

「ちげえだろうがっ! 何もわかってないのにテキトーなこと言ってんじゃねーぞ!」


 アメスクギャルという、ポルノ女優としか思えない服装をしているというのに、そのバーヴァン・シーの気迫は凄まじいものだった。

 サーヴァントとしてはトップサーヴァント級には及ばない実力のバーヴァン・シーであっても、この底辺校に通うヤンキー男子にとって見れば天と地がひっくり返っても勝てない『超人』なのである。

 バーヴァン・シー以外には強気に出られる程度には喧嘩が強いはずのその外国人男子は、可哀想なぐらいにガタガタと震えているではないか。

 そんな哀れな男子生徒に一切同情する様子もなく、バーヴァン・シーはさらに驚きの言葉を続けていくのだった。


「これはもうなぁ、『私のパンツ』じゃないんだよ! 『オタクのパンツ』なんだよ! アンタはオタクのもんを勝手に盗み見たんだから、謝るのは私じゃなくてオタクに対してだろーが! どこまで馬鹿なんだ、この雑魚がっ!」

「ひぅっ! こ、ここここ、肥田さんっ! マジですんませんでした!」

「なにがすまないのかまで言えよ、この間抜けっ!」

「こ、肥田さんのオンナのパンツを盗み見て、勝手に興奮してすみませんでしたぁ!」


 からん、ころ~ん。


 安っぽい鐘の音が鳴り響く中、バーヴァン・シーは自分のパンツを見られたはずなのに、その謝罪を太に向けて行えと男子生徒へと強要したのである。

 バーヴァン・シーは太のことをからかうような気軽な口調で接しながら、その心の中は完全に太に従属する性奴隷であることの証明だった。

 端から見るとわけがわからない無茶苦茶な理屈だが、男子生徒はそのまま腰の位置よりも更に深く頭を下げて叫ぶように謝罪をすると、そのまま逃げ去っていくのだった。


「あっ、こら待てよ、お前! まだオタクが許してないだろうが!」

「ぶ、ぶひひぃ♪ い、いいよいいよ、バーヴァン・シーちゃん。僕は別に、気にしてないからさぁ」

「むぅ……オタクがそんな風に言うのなら、まあ私は別にいいけどさ……」

「やっさしぃ~♪ さすが相棒だねぇ、自分のオンナをスケベな目で見られたっていうのに許してあげるなんて、器が大きいって感じだね~♪」


 そんな男子生徒をさらに追い詰めようとするバーヴァン・シーだが、太に止められると渋々と言った様子で、再びそのパンツを見せびらかすように椅子に逆座りで腰掛ける。

 それを見ていたリリスもケラケラと笑うのだった。


「でもさぁ……ちょっと相棒は優しすぎるかなぁ。これじゃあ、アテシは心配だよ」

「し、心配って……何が?」

「例えばねぇ、箸にも棒にもかからないような、見た目が雑魚な女子に告白された時にちゃんと断れるのかとか……これは由々しき問題ではないかね、バーヴァン・シーくん?」

「あ~……それはあるかも。オタクにガチ恋している女子への対応、オタクは自惚れたバカ女をうまく振れるタイプじゃないって感じだよな」


 そんな中でリリスは、なにか悪巧みを思いついたように意地の悪い笑みを浮かべる。

 そして、その口ぶりを聞いたバーヴァン・シーもまた何かに気づいたように、ニタリとサディスティックな表情を作ったのだ。

 このお嫁さんギャルコンビは太のことを愛しているが、同時に太のことをからかうのことも大好きなギャルらしい性格も持っているのだ。


「というわけで~……❤ 食事の前に、N本人としての厳しさを身につけるトレーニングとして……ゲームをしよっか、相棒❤」

「オタクがこのゲームをしっかりクリアできれば、リリスの作ったお弁当は食べさせてやんよ❤ 昼を食べたかったらちゃんとゲームを頑張るんだぞ、オタクぅ❤」

「え、ええ……♪」


 突如と始まったゲームに太は困惑した声を上げながらも、同時にその心は期待に満ちていく。

 このN本に来てからリリスと出会ってお嫁さんとして娶り、バーヴァン・シーもまたお嫁さんにして以来、太はこの二人が自分に対して不利になったり不快に感じたりするような、そんなことをしないことを知っているのだ。

 この『ゲーム』もまた、太に徹底的に都合の良いものになるのだろうと分かっているからこその期待である。


「そのゲームは……『告白ゲーム』っ❤ ふぅ~、ぱふぱふ~❤」

「こ、告白……ゲーム……?」


 リリスの口から飛び出た聞いたこともない謎めいたそのゲームに、太は困惑する。

 そんな太の様子を嬉しそうに見ながら、リリスは弾んだ声でそのゲームの内容を説明していく。


「相棒は女子が必死に告白をしてきたらなんでもかんでも受け入れて、お嫁さんの器もないような雑魚牝もお嫁さんにしちゃいそうだもんねぇ❤ 必死に『恋人にしてくだちゃ~い❤』って告白してくる女に対してちゃんと断れたら、相棒の勝ちってゲーム❤」

「ぶふふぅ! こ、断るのぉ!?」

「そういうこと❤ じゃあ……準備なんかさせないからな❤ はい、それじゃあ私が告白するから断るんだぞ?」

「へ? へっ!?」


 元々、頭の回りが良い方ではない太を置き去りにして、その『告白する女子をフるゲーム』である『告白ゲーム』は始まった。

 キョロキョロと前後に構えているリリスとバーヴァン・シーを交互に見ていた太はまだうまく理解できていないようだが、そんなことなどお構いなしにバーヴァン・シーが動き出していく。


「…………オタク、お願いがあるんだ」

「え、ええ……!?」


 バーヴァン・シーはイモムシのような太くて短い太の指へと、細くて長い指を添える。

 その動きは、先ほどの男子生徒を一括していたカースト最上位ギャルのものとは思えないほどに弱々しく、優しい動きだった。

 普段ならば酷薄に薄められるサディスティックなバーヴァン・シーの目がぱちりと開き、うるうるとうるみ出した。

 バーヴァン・シーほどの美少女に手を握られながらその美貌を向けられるだけでも、頭がどうにかなりそうなほどの興奮を覚えてしまう淫靡な状況と言えるだろう。

 赤く艷やかな唇が動き出し、バーヴァン・シーは太へと『告白』をしていくのだった。


「私……オタクのことが好きなんだっ! オタクと、恋人になりたい……! なんでもするから、デートは全部オタクが行きたいところでいいし、お金も私が出すから……っていうか、オタクの行きたいところに私も行きたいし! オタクの趣味のアニメとかも色々と教えてもらいたいし、オタク好みのオンナに絶対なるから……!」

「ぶ、ぶふぅ……♪」

「私のことを……バーヴァン・シーのこと、オタクのカノジョにしてくださいっ!」


 このクラスで、いや、この学園でもっともカーストの高い位置にある美少女ギャルなバーヴァン・シーのガチ告白である。

 涙で潤んだ視線で上目遣いで見つめながら、太の手をぎゅっと強く握った。


「ぶ、ぶひぃぃ! するする! ば、バーヴァン・シーを僕の恋人に、するぶひぃぃ!」


 当然、そんな愛の告白をチビでデブでオタクという三重苦の太が振り払えるわけがなかった。


「…………ぷ、ぷははは! ダメじゃん、相棒! そりゃバーヴァン・シーのガチ告白なんてめっちゃかわいいやつだけどさぁ♪ これは告白ゲームでぇ、相棒がテキトーな底辺女子を間違ってカノジョにしたいための練習なんだから断らないといけないじゃんね~♪」

「ほんとしょうがないなぁ、オタクは❤ ほら、もっと練習するぞ❤ 次はどんな風に告白してやろうかな~❤」

「そらそらっ❤ 愛しいアテシのお弁当が食べたかったら、バーヴァン・シーのことをちゃんとフるんだぞ~❤ 罰ゲームの、かっこいいお腹モミモミもやっちゃうかんね~❤」

「…………………な、なあ? これ、あくまでゲームだからな? ゲームでフったからと言っても、私がオタクのお嫁さんギャルなことは変わんないよな? そこらへん、冗談にもならないから最初に確認しとくぞ? フッとくのは遊びで、わ、私は一生オタクのお嫁さんギャルのままだよな?」


 そんな太をリリスとバーヴァン・シーは大きく笑う。

 だが、太に不快感はなかった。 

 リリスは太のでっぷりとしたお腹をモミモミと揉みしだき、バーヴァン・シーは突然不安になったのかこれでフラレたから本気で恋人からリストラされるわけじゃないよなと確認を取るその姿から、確かな愛情を感じたからだ。

 そして、愛情を感じると同時に優越感を覚える。


(ぶ、ぶひぃ……! こ、これ……僕が望んだ、理想の高校生活だ……! 『前の世界』では失敗して不登校になって退学して、親から無理やり就職させられて人生終わってたけど……ぶひひ! 同じ底辺校でも、見た目も力も最強なギャルコンビと陽キャっぽい高校生活送れてるの、最高すぎるよぉ!)


 N本に来る前の元の世界での太は、端的に言うならば惨めな人生を歩んでいた。

 小学校や中学校では、チビでデブでブサイクなオタクであることから周囲に軽んじられるのが日常ではあったが、それでも最低限度の友人と呼べる同級生はいたのだから、事の始まりはやはり、高校入試の失敗からだろう。

 頭が良くないとはいえ、友人たちと同じ偏差値の低い県立高校に通うはずだったのに落ちてしまい、それだけならばまだ良かったが滑り止めの私立高校にもまさかの入学失敗。

 結局、県内でもっとも治安の悪いとされている底辺校に入学することになったのである。

 そして、その底辺校に入学してから一週間後、不良生徒からのカツアゲを反射的に断ってしまい、ボコボコに殴られた後に下半身を露出された写真を撮られ、それをSNSに流出されてしまう。


 そんな出来事に、太の心は折れた。

 登校拒否の末に退学をし、三年間引きこもってしまい、人間不信はすっかりと心を蝕んだ。

 時代錯誤も極まりないが、薄情な両親から無理やりに寮付きの仕事に就職するように結ばれて、呆然としながらその社屋に向かう最中に、太は意識を失った。

 そうして、目を覚ました時にはこのアキハバラに流れ着いていたのである。

 そこでリリスと出会い、リリスほどの美少女が自分にガチ恋してお嫁さんギャルにしてくれと媚び、さらには逆レイプ同然にラブホテルへと連れ込まれて童貞卒業をした。

 このN本という世界のチートっぷりを感じるには十分すぎる体験と言えるだろう。

 そこで太は、この徹底的に自分に都合よく動くN本という世界で、あの一瞬で終わってしまった『高校生活』をやり直すことを決めたのだ。

 

(もう元の生活に戻るなんて考えられない! 僕はこのN本で……リリスやバーヴァン・シーたちと……僕を虐めたブサイクギャルなんかよりもずっとレベル高い美少女ギャルと、幸せに高校生活をやり直すんだ!)


 この告白ゲームも昼休みのクラス中に響き渡るような大声で堂々と行っているのに、誰も『うるさい』と注意をすることもなく、クラスメイトたちは遠巻きにオドオドとした様子で見つめるだけだ。

 それは、このクラスにおけるカーストの最上位が肥田太とリリスとバーヴァン・シーたち三人だから、この三人の行動を咎めるようなことを三人よりカーストが下の人間がしてはいけないからである。

 このスクールカースト制度こそが肥田太が聖杯に願ったことであり、それが叶ったこの高校生活を送ることで日常的に優越感で満たされていた。


 からん、ころ~ん。


 だが、この安っぽい鐘の音が鳴り響く世界で満たされるのは、『優越感』だけではない。

 太にとって『人より明確に優れている』と言えるもの——N本に選ばれるほどに膨大な『性欲』もまた、満たすことができるのが、この『崇N侮外世界N本』という異常な世界なのだから。


(続)

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